羊トークンをめぐる冒険

いまさらだけど、村上春樹1Q84」読み始めました。
amazonで予約してたからかなり前に届いたんだけど忙しくて読んでなかった。

なぜか下巻が先に届いたことでも出鼻をくじかれたなw

しかも、下巻はペリカン上巻は佐川で届く。
同時発売なんだから一緒に届けろやー。


さて、せっかく新刊も出たことだし長年温めていたネタでも投入するか。




村上春樹風に遊戯王を語る

トークンをめぐる冒険

「完璧なデュエルなどといったものは存在しない。神のカードが
存在しないようにね。

僕が4期が始まったころ偶然にも知り合ったデュエリストは僕に向ってそう言った。
僕がその本当の意味を理解できたのはだいぶあとになってからだったが、
少くともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。
完璧なデュエルなんて存在しない、と。


今、僕は羊トークンについて語ろうと思う。
もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、語り終えた時点でも
あるいは事態は全く同じということになるかもしれない。結局のところ、
デュエルを行うことはデッキ構築の手段ではなく、大会優勝へのささやかな
試みにしか過ぎないからだ。



デュエルというのは非常に重大なことのようにも思えるし、
逆にまるでたいしたことじゃないようにも思える。つまり自己療養行為
としてのデュエルがあり、暇つぶしとしてのデュエルがある。
終始自己療養行為というデュエルもあれば、終始暇つぶしというデュエル
もある。はじめは自己療養行為であったものが暇つぶしとして終わる例もあれば、
逆の場合もある。なんというか、我々のデュエルは武藤遊戯のデュエルとは
根本的に異なっているのだ。


我々は武藤遊戯ではない---これは僕のデュエリストとしての、ひとつの重大なテーゼである。




僕がオリジナル羊トークンを作ろうと思ったのは、遊戯王を始めて1ヶ月もした
頃だった。
カオス・ソルジャー開闢の使者、サウザンド・アイズ・サクリファイス、突然変異。
そんな時代でもあった。空気はどことなくピリピリとしていて、ちょっと力を
入れて蹴飛ばしさえすれば大抵の物はあっけなく崩れ去りそうに思えた。
我々はあまりぱっとしないデュエルをしたり、結論のないデッキ構築をしたり、
カードを貸したり借りたりして毎日を送っていた。そしてあの不器用な
遊戯王の開闢環境もかたかたという軋んだ音を立てながらまさに幕を閉じようとしていた。



速攻魔法「スケープ・ゴート」は多くの人が使うカードだが、その効果で出てくる4体の「羊トークン」は、当時コナミからは出ていなかった。
そして今日でもなお、日本人の羊トークンに対する意識はおそろしく低い。
要するに、歴史的に見て羊トークンが生活のレベルで日本人に関わったことは一度もなかったんだ。
トークンは国家レベルで米国から日本に輸入され、育成され、そして見捨てられた。それが羊トークンだ。



ないのなら、自分で作ればいいのではないか?
考えてみてそれは悪くないアイディアのように思えた。
だが僕は自慢ではないが絵は全く描けない。
そこで代償として羊の写真を使うことにした。人は生きていく限りなにがしかの代償をはらっていくものなのだ。



「ねえ、上野動物園には羊っているよね?」
と僕はバイトに聞いた。
「いや、いないと思いますよ」


 それを聞いたとき僕のは、すっかり混乱しきっていた。
そんな混乱の中でもこれだけははっきりと言える、羊は存在するんだ、と。
スケープゴート」ベッドサイドに座って声に出して言ってみる、
まるで何かを間違えたペンギン・ナイトメアが、伝説の都アトランティス
仲間に呼びかけたみたいに誰の返事もなかった。



「え?だって羊だぜ。十二支にも入ってるメジャーな動物なのに
動物園にいないの?」
と聞き返した。


僕はためしに、都内の動物園のホームページを片端から調べていった。
結果は、バイトの言うことが正しかった。少なくとも、どのホームページ
にも、羊の存在は紹介されていなかった。
あるいは、あまりにメジャーすぎて紹介する気にもなれないのかもしれない。



とくにかく、そのようにして僕の羊トークンをめぐる冒険が始まった。



「君は遊戯王における羊トークンの必要性がわかるかい?」
巨大鼠は唐突に切り出した。
僕は、刻んだトマトとモッツァレラチーズをクラッカーにのせた物を
一かじりしたところだった。
「もちろん。」と僕は言ったが、必要性については答えなかった。
巨大鼠はそこに鼻があることを確認するかのように、ゆっくりと触れた。
「つまり、それは海馬瀬人がブラックマジシャンを召喚するように自然なことなんだ。」
やれやれ…
「いいかい、巨大鼠。ブラックマジシャンを召喚するのは武藤遊戯だ」



次の日の月曜日、僕は池袋から山手線に乗った。上野駅で降りて街路図を見てみたが、
地図は埋蔵金の地図と同じ程度しか役に立たなかった。おかげで上野動物園に辿り
つくまでに幾つもジュースを買い、何度も道を訊ねねばならなかった。


始めから終わりまで、しみひとつない羊トークンを作ることは出来ないかもしれない。
しかし、僕はもう一度この「月曜日閉園」の表示板を眺めて愕然とし、あきらめの言葉を口にした。
「いいさ、みんな好きなだけ休めばいい。」
しかしそれは自分の口から出たものとは思えなかった。



「どうして上野動物園は月曜日に開園しないんだろう?」と僕は訊いてみた。
「それはきまっていることなのよ。どうしてかは私にもわからないわ」と彼女は言った。
「多くの公共施設は月曜日には決して仕事をしないの。もちろん私たちが指示
すれば出ることはあるけれど、そうでない限りは出ないの」



「あなたのために羊の絵を描いてもいいわ」
と彼女はコーヒーを飲み終えてから言った。
「でも、そうすることが本当にあなたのために
なるのかどうかは私にもわからないの。
あなたは後悔することになるかもしれないわよ」
「どうして?」
「羊トークンはあなたが考えているほど良いものじゃないかもしれないということよ」
「かまわないさ」
と僕は言った。



「私に羊の絵が描けると思うの?」
「僕には君が羊の絵が描けると思う」
「どんな風にして?」
「それはまだ分からない。でもきっとできる。僕には分かるんだ。きっとうまい方法が
ある。そして僕はそれをみつける」



僕は息を呑み、呆然と彼女の描いた羊トークンを眺めた。
口はからからに乾いて、体のどこからも声はでてこなかった。
「すごいよ」
と僕はしぼり出すように言った。
「同じ人が描いたんじゃないみたいだ」
「その通りよ」
彼女は言った。


「やれやれ。僕はすっかり回り道をしていたようだ。君が美術学校を卒業したことを
今まで聞いたこともなかったなんて、いったいなぜなんだろう」
「その答えは」と彼女は言った。「たぶん、N・アクア・ドルフィンホテルにあるわ」
その翌日、彼女の姿は消えた。

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